【速報】参政党 通貨発行権の真意 日本はデフォルトしないのか

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導入:通貨発行権は魔法の杖か? 国家債務の真実と限界

「日本ではデフォルトは起きません!なぜなら通貨発行権を持ってるからです!」

この発言は、最近SNSなどで活発な議論を呼んでいる参政党の「さや」氏のものとされ、多くの人々に「お金を発行し放題ってこと?」という素朴な疑問と、同時に希望や不安を抱かせました。国家の債務問題が世界的に注目される中、自国通貨を発行できる国は本当にデフォルト(債務不履行)しないのでしょうか?

本記事は、この問いに対し、自国通貨発行権を持つ国が理論上は自国通貨建て債務でデフォルトしないという主張は、一面の真実を含んでいるものの、無制限な通貨発行はハイパーインフレーションや通貨信認の喪失といった深刻な経済的帰結をもたらすため、財政規律が不可欠であるという結論を提示します。

以下、通貨発行権の役割、関連する経済理論、そしてそれに伴うリスクまでを、専門機関の公式見解や経済学の視点から深く掘り下げて解説し、この問題が持つ「光と影」の多面的な側面を明らかにします。

通貨発行権がもたらす「デフォルトしない」という主張の理論的背景と公的見解の深掘り

今回の議論の核となる「通貨発行権」は、現代国家の金融システムにおいて極めて重要な概念です。日本において円を発行する独占的な権利を持つのは日本銀行であり、政府はこの日本銀行を通じて、自国通貨である円を供給する仕組みを有しています。この仕組みこそが、「日本は自国通貨建て債務でデフォルトしない」という主張の根拠となっています。

現代貨幣理論(MMT)との関連性:ソブリン通貨の力

参政党の主張の背景には、しばしば「現代貨幣理論(MMT: Modern Monetary Theory)」と呼ばれる経済思想との類似性が見られます。MMTは、自国通貨を発行できる「貨幣主権(Monetary Sovereignty)」を持つ政府は、通貨建ての債務についてデフォルトする心配はない、という考え方を基本としています。これは、政府が資金を調達する際に、税収や借入だけでなく、必要に応じて通貨を発行(増刷)することで支払いを行うことができるためです。

MMTの提唱者たちは、貨幣発行能力を持つ政府は、財政収支の黒字を目指す必要はなく、むしろ完全雇用と物価安定を達成するために必要な支出を行うべきだと主張します。彼らにとって、政府の財政赤字は国民の金融資産であり、国債は中央銀行の負債と見なされます。この理論においては、政府の支出の唯一の制約はインフレーションであり、インフレが顕在化するまでは財政支出を拡大できるとされます。

公的機関の見解:理論的デフォルトリスクの否定

このMMTの主張に類似した見解が、日本の公的機関からも示されています。

財務省は2014年4月30日に公表された「外国格付け会社宛意見書要旨」の中で、貨幣主権を持つ国のデフォルトリスクについて明確な見解を述べています。

「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」
引用元: 外国格付け会社宛意見書要旨 : 財務省

この財務省の見解は、日本のような先進国が、自国通貨である円建ての国債について、理論上は支払い能力を失うことはないという認識を明確に示しています。これは、日本政府が日本銀行を介して円を無制限に発行できるという事実に基づいています。もし、政府が債務返済に窮しても、日銀が国債を買い取り、政府に資金を供給することが可能であるため、技術的なデフォルトは回避できるという論理です。

さらに、国土交通省の資料においても、同様の見解が示されています。

「政府には、『最後の貸し手』の日本銀行がついています。(厳密にいうなら、政府には通貨発行権があります)だから、日本政府が、円建て国債でデフォルトしない」
引用元: Untitled (国土交通省)

ここで言及されている「最後の貸し手」(Lender of Last Resort)機能とは、金融システムが危機に瀕した際、中央銀行が金融機関に対して流動性を供給し、連鎖的な破綻を防ぐ役割を指します。広義には、政府の国債が市場で消化されない場合や、返済資金が不足した場合に、中央銀行が国債を買い入れることで、政府のデフォルトを防ぐ機能も含まれると解釈できます。この機能こそが、自国通貨建て債務におけるデフォルトのリスクを極めて低くしている主要因です。

デフォルトとは何か? 自国通貨建てと外貨建て債務の決定的な違い

ここでいう「デフォルト」とは、国や企業が、債務(借金)の元本や利息を期日までに支払えなくなる「債務不履行」の状態を指します。重要なのは、自国通貨建て債務と外国通貨建て債務では、デフォルトのリスクが全く異なるという点です。

  • 自国通貨建て債務: 日本の国債のほとんどは円建てであり、政府は円の発行権を持つ日本銀行を通じて、理論上はいくらでも円を供給して債務を返済できます。したがって、技術的なデフォルトは「考えられない」とされます。
  • 外国通貨建て債務: 一方、新興国がドル建てやユーロ建てなどの外国通貨で債務を負っている場合、自国通貨の発行権があっても、必要な外貨を調達できなければデフォルトのリスクは高まります。外貨準備の枯渇や国際収支の悪化が、デフォルトの引き金となる可能性があります。

日本の場合は、自国通貨建ての債務が圧倒的大多数を占めているため、この点において、通貨発行権を持たないユーロ圏諸国や、外貨建て債務が多い新興国とは根本的に異なる立場にあると言えます。

「お金発行し放題」の誤解と、通貨発行の「影」—インフレーションと信認喪失のリスクの深掘り

前述の通り、自国通貨建て債務における技術的なデフォルトのリスクは低いという点では、参政党の発言や公的機関の見解は一致しています。しかし、この事実が「お金を発行し放題」という解釈に繋がるのは、極めて危険な誤解です。通貨発行権には、計り知れない「影」となるリスクが潜んでおり、これらは経済と国民生活に壊滅的な影響を与えかねません。

1. インフレーションの加速:貨幣数量説と歴史の教訓

最も大きく、かつ即座に顕在化するリスクは、インフレーション(物価上昇)の加速、特にハイパーインフレーションへの転落です。

経済学の基本的な概念である「貨幣数量説」は、流通する貨幣量が増えれば増えるほど、貨幣の価値は下がり、物価は上昇する傾向にあると説明します。市場に流通する通貨の量が、経済の実体(生産能力、供給量)に見合わないほど急激に増えすぎると、通貨の購買力が減退し、商品の価格が急激に上昇する「悪いインフレ」が発生します。

立命館大学の経済学部の解説も、このインフレリスクを明確に指摘しています。

「政府が貨幣発行で全額返済することに、国民や日本銀行の賛同を得にくい理由として、このインフレリスクが挙げられます」
引用元: 日本政府の借金は約1,200兆円。なぜお金を刷って返済にまわさない…

この引用が示唆するように、無制限な貨幣発行による財政ファイナンス(中央銀行が直接国債を買い取り、政府の財政赤字を穴埋めすること)は、国民からの信頼と中央銀行の独立性を損なうため、極めて慎重にならざるを得ません。中央銀行は物価の安定を最重要目標としており、無制限な貨幣発行は自身の責務に反する行為となるため、これに安易に賛同することはありません。

過去には、実際に過度な通貨発行が経済を破壊した歴史的悲劇が繰り返されてきました。

  • 第一次世界大戦後のドイツ(ワイマール共和国、1921-1923年): 巨額の賠償金支払いのために通貨を乱発した結果、物価は月に数千%という想像を絶する上昇を記録し、紙幣の価値は一瞬にして失われました。人々は賃金を買い物カゴに入れて運び、パンを買うために貨幣の重さを測るといった、前代未聞の事態に直面しました。これは、政府が無制限に通貨を発行すればするほど、その通貨への信頼が失われ、価値が暴落するという典型例です。
  • 2000年代のジンバブエ: 2000年代後半に、政府が財政赤字を穴埋めするために通貨を大量に増刷し、年間数千億%というハイパーインフレーションが発生しました。経済は機能不全に陥り、食料や燃料の供給が途絶え、最終的には自国通貨の使用を放棄せざるを得なくなりました。

これらの事例は、通貨発行権が決して無制限な財源を意味するものではなく、その行使には厳格な規律と責任が伴うことを痛感させます。

2. 通貨の信認(信用)の喪失:国際社会からの孤立

通貨の信認とは、その通貨が安定した価値を持ち、経済活動において信頼できる決済手段として国内外から広く受け入れられることです。これは、通貨が機能するために不可欠な基盤であり、政府が無制限に通貨を発行すれば、この信認は急速に損なわれます。

信認を失った通貨は、国際的な取引での価値が急落します。これは、円安の急激な進行を意味し、輸入物価の高騰を招き、国民生活を直撃します。国際投資家は、そのような国の通貨や国債から資金を引き揚げ、資本流出が加速します。結果として、その国は国際金融市場から孤立し、経済活動が極めて困難になるでしょう。これは、政府が自国通貨建て債務でデフォルトしないとしても、実質的な経済破綻を意味します。

3. 金融市場の混乱と財政規律の喪失:財政ファイナンスの禁止原則

日本銀行が政府の国債を直接引き受ける(政府が発行した国債を日銀が直接購入する、いわゆる「財政ファイナンス」)ことは、財政法第5条によって原則として禁止されています。

(日本銀行の国債引受等の原則禁止)
第五条 国会の議決を経た予算の範囲内において発行する国債又は国庫短期証券で、特に必要がある場合において、日本銀行がこれを引き受けることができる旨の議決を国会で得たものを除く外、日本銀行は、これを引き受けてはならない。
引用元: 財政法 | e-Gov法令検索

この規定は、中央銀行の独立性を守り、政府の無責任な通貨発行を防ぐための極めて重要な歯止めです。もし、この原則が崩れ、無制限な通貨発行が始まれば、金融市場に混乱を招き、長期金利の急騰や円安の加速といった事態に発展する可能性があります。これは、投資家が将来的なインフレリスクを織り込み、国債を売却することで、金利が上昇するメカニズムによるものです。

また、通貨発行権があるからといって、財政規律を無視して支出を増やし続ければ、将来世代に大きな負担を残すことになります。無計画な財政拡大は、経済全体の生産性向上を妨げ、資源配分を歪め、持続的な成長を困難にする可能性も指摘されています。

通貨発行権を持たない国のデフォルトリスク:ユーロ圏の教訓と日本との対比の深化

日本の状況をより深く理解するために、通貨発行権を各国が放棄し、共通通貨ユーロを採用しているユーロ圏の事例と比較することは有益です。

EU圏では、各国が独自の通貨発行権を放棄し、欧州中央銀行(ECB)がユーロの通貨発行を担っています。これにより、ギリシャなどの国は、財政危機に瀕した際に自国で通貨を増刷して債務を返済するという選択肢がありませんでした。この構造が、2010年代初頭の欧州債務危機において、ギリシャを深刻な状況に追い込みました。

「2012年には、ギリシャが債務不履行(デフォルト)の瀬戸際に追い込まれ、国際的な金融支援なしでは経済が破綻するという状況に陥りました」
引用元: EU MAG 駐日EU代表部公式ウェブマガジン (2012年7月1日公開)

ギリシャは、長年の財政規律の緩みと統計の偽装が露呈し、国債の利回りが急騰。市場からの資金調達が不可能となり、自力での債務返済が行き詰まりました。自国通貨の発行権があれば、少なくとも理論上は国債を買い取って資金を供給できたかもしれませんが、ユーロ圏ではそれが不可能であったため、ギリシャはIMF、ECB、欧州委員会(トロイカ/トリオ)による大規模な国際金融支援と、厳しい緊縮財政の受け入れを余儀なくされました。これは、主権国家でありながら通貨発行権を持たないという、ユニークな状況がもたらした教訓です。

この事例は、自国通貨発行権を持たない国が、財政状況が悪化した際にいかにデフォルトのリスクに晒されるかを明確に示しています。日本の場合は、自国通貨発行権という強みを持っているため、この点においてユーロ圏諸国とは根本的に異なるリスクプロファイルを持つと言えます。しかし、その強みが無条件に「万能薬」であるわけではないという点が、この議論の核心です。

多角的な分析と将来への示唆:MMTと主流派経済学の対立、そして日本の課題

「日本はデフォルトしない」という主張の背景にあるMMTは、近年の財政・金融政策に関する議論に大きな影響を与えましたが、その理論には主流派経済学からの強い批判も存在します。

MMTへの批判:インフレ制御と国際的制約

MMTは、自国通貨発行権を持つ政府はインフレが起きない限り財政制約がないと主張しますが、批判側は以下の点を指摘します。

  1. インフレ制御の難しさ: MMTはインフレが起きれば財政支出を抑制すべきだとするが、一度インフレが加速し始めると、その抑制は政治的・経済的に極めて困難になる。特に、通貨信認が損なわれた状態での増税や支出削減は、社会に大きな混乱をもたらす可能性がある。
  2. 国際金融市場からの制約: MMTは国内経済に焦点を当てる傾向があるが、国際金融市場は政府の財政規律の緩みを厳しく評価し、通貨安や資本流出を引き起こす可能性がある。これは、輸入に依存する国にとっては深刻な問題となる。
  3. 中央銀行の独立性: MMTの主張を徹底すれば、中央銀行が政府の「出納係」となり、その独立性が損なわれる恐れがある。これは、物価安定という中央銀行の本来の責務を危うくし、市場の信頼を損ねる。

これらの批判は、通貨発行権を持つ国であっても、無制限な財政支出には必ず制約が存在し、それが「インフレ」と「信認の喪失」という形で現れることを示唆しています。

日本の特殊な状況と将来への課題

日本は、歴史的にデフレに苦しんできたこと、そして国債の大部分を国内(特に日本銀行)が保有しているという特殊な状況にあります。このため、大規模な財政支出や金融緩和が直ちにハイパーインフレを引き起こすという懸念は、これまで現実のものとはなりませんでした。しかし、だからといって無制限な通貨発行が許されるわけではありません。

少子高齢化が進む日本では、将来世代への負担を考慮した財政健全化は避けて通れない課題です。通貨発行権を安易な財政赤字の穴埋めに使うことは、この健全化努力を阻害し、持続的な経済成長の道を閉ざしかねません。財政運営は、通貨発行の能力に頼り切るのではなく、歳出改革、税収の確保、効率的な支出といった多角的な視点から、国民の理解を得ながら進められるべきです。

結論:通貨発行権は「万能薬」ではなく「強力な責任」

参政党の「日本ではデフォルトは起きません!なぜなら通貨発行権を持ってるからです!」という発言は、日本のような自国通貨建ての債務が主体の国が、理論上は通貨発行を通じて債務を返済できる能力を持つ、という点において一面の真実を含んでいます。財務省や国土交通省の見解も、この点を支持し、自国通貨建て債務における技術的デフォルトのリスクは極めて低いことを示しています。

しかし、「お金発行し放題」という解釈は、極めて危険な誤解であり、通貨発行権は「万能薬」ではなく、その行使には極めて慎重な判断と、インフレ抑制のための厳格な財政規律が不可欠な「強力な責任」が伴います。無制限な通貨発行は、ワイマール共和国やジンバブエの事例が示すように、ハイパーインフレーションや通貨の信認喪失といった深刻な経済的混乱を招くリスクが極めて高く、国民生活に壊滅的な影響を与えかねません。

現代の財政・金融政策は、単にデフォルトを回避するだけでなく、物価安定、完全雇用、持続可能な経済成長といった多岐にわたる目標を達成するために複雑なバランスを要求されます。この議論は、私たち一人ひとりが、国の財政や通貨の仕組みについて正しく理解し、健全な議論を深めていくことの重要性を示唆しています。通貨発行権という国家の根幹に関わる能力を、いかに賢明かつ責任をもって管理していくか、その課題は常に私たちの社会に投げかけられています。

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