2000年代前半のJ-POPシーンを席巻したORANGE RANGEが、今、リアルタイム世代とは異なる「Z世代」の間で驚異的な再流行を見せています。この現象は、単なるノスタルジーや偶発的なバズに留まらず、デジタルプラットフォームが変容させた音楽消費のメカニズム、Z世代特有の文化と感性、そしてORANGE RANGEの音楽が内包する普遍的な魅力が複合的に作用した結果と分析できます。本稿では、この「ORANGE RANGEの再燃」という興味深い社会現象を、提供された情報を深掘りしつつ、音楽産業、メディア消費、そして世代間文化交流の多角的な視点から解剖していきます。
デジタルネイティブ世代が解き放つ「過去のヒット曲」の新たな価値
ORANGE RANGEの楽曲がZ世代に浸透している最大の要因は、TikTokに代表されるショート動画プラットフォームにおける「楽曲の再文脈化」にあります。これは、既存の楽曲が、新たなクリエイティブな表現の素材として、ユーザーによって再解釈され、新たな価値が付与される現象です。
1. TikTokにおける「おしゃれ番長」の爆発的拡散とコンテンツ消費の変容
Z世代のトレンドを語る上で欠かせないTikTokが、ORANGE RANGE再流行の火付け役となりました。特に注目すべきは、2008年リリースの楽曲「おしゃれ番長 feat.ソイソース」の驚異的なバズりです。
2008年、ポッキーのCMで流れていたあの曲を覚えているだろうか。「オシャレバンチョー カナリつぼー」のフレーズが耳に残る、ORANGE RANGEの「おしゃれ番長 feat.ソイソース」。あれから17年が経った今、TikTokでは「おしゃれ番長」の楽曲を使った動画がティーンを中心に大流行しており、総再生数は3億回を超えているのだ。
引用元: 令和に必要なのはORANGE RANGEだった…!?「おしゃれ番長」TikTok3億回再生でMV再公開(ウォーカープラス)
この3億回再生という数字は、単なる再生回数ではなく、TikTokというプラットフォームにおける「参加型消費」の典型例を示しています。Z世代は、音楽を「聴く」だけでなく、「使う」ことで消費します。すなわち、「オシャレバンチョー カナリつぼー」というキャッチーなフレーズと、そのリズムに合わせたユニークなダンスやショート動画を自ら制作し、共有することで、楽曲自体が持つエンターテイメント性が増幅され、さらに多くのユーザーへと波及していくのです。
この現象は、Z世代が重視する「タイパ」(タイムパフォーマンス)とも深く関連しています。短尺で視覚的に楽しめるコンテンツは、情報過多な現代において効率的な情報消費を可能にし、ユーザーは瞬時に楽曲のエッセンスを把握できます。「おしゃれ番長」の楽曲構造、特に記憶に残りやすいフック(サビ)は、TikTokのアルゴリズムにおいてユーザーの滞在時間を延ばし、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を促進する上で理想的であったと言えるでしょう。
また、TikTok上での「#オレンジレンジ」の投稿数が7656件にものぼるというデータは、この楽曲が一時的な流行に終わらず、ORANGE RANGEというバンド全体への関心へと広がっていることを示唆しています。
オレンジレンジ |7656件の投稿 TikTok (ティックトック) で#オレンジレンジの最新動画を視聴しよう。
引用元: #オレンジレンジ | TikTok
これは、TikTokが単なる「プロモーションツール」を超え、「楽曲の再発見プラットフォーム」として機能していることを明確に示しており、「イケナイ太陽」や「花」といった他の楽曲にも関心が波及する「ロングテール現象」の一因となっています。
2. TikTok発のバズが牽引する音楽チャートの「逆走」現象
TikTok上での爆発的な人気は、オンライン上の一時的なムーブメントに留まらず、実際の音楽消費行動へと直結しています。これは、デジタル時代の音楽チャートの形成メカニズムが大きく変容したことを明確に示しています。
7月10日発表の「オリコン週間ストリーミング急上昇ランキング」でも、「イケナイ太陽」が上昇率242.9%で1位を獲得してしまっていますし、ビルボードのYouTubeチャートでも7月9日に1位になったというニュースも流れていました。
引用元: 平成のヒット曲が18年の時を超えてMV1位に。オレンジレンジ「イケナイ太陽」の快挙(徳力基彦)
このデータは、「イケナイ太陽」という18年前の楽曲が、現在のヒットチャートにおいて新規リリース曲を凌駕する勢いで再生数を伸ばしているという、極めて異例かつ象徴的な現象です。Z世代はTikTokで楽曲の一部に触れ、興味を持てば、すぐにストリーミングサービスでフル音源を聴いたり、YouTubeでミュージックビデオ(MV)を視聴したりします。このシームレスな消費行動が、過去の楽曲を「急上昇ランキング」のトップに押し上げる原動力となっています。
従来の音楽業界では、リリースから時間が経った楽曲は「カタログ」として扱われ、新規リリース曲ほどチャート上位に食い込むことは稀でした。しかし、TikTokのようなプラットフォームが、カタログ楽曲に新たな露出機会を与え、まるで新規リリース曲のようにフレッシュな状態で再評価される「音楽のデジタル・リバイバル」を可能にしているのです。これは、音楽コンテンツのライフサイクルが延長され、過去の遺産が「常に新しい」価値を持つようになった現代の音楽産業における重要な変化と言えるでしょう。
時代を超越する「ORANGE RANGEらしさ」とZ世代の感性との共鳴
ORANGE RANGEの楽曲がZ世代に響く理由は、単なるデジタルプラットフォームの恩恵だけではありません。彼らの音楽そのものが持つ「時代超越性」が、Z世代の感性と深く共鳴していると分析できます。
3. 多様性を内包するミクスチャーサウンドと自由な表現の追求
ORANGE RANGEの音楽の根幹にあるのは、ロック、ヒップホップ、レゲエ、ポップス、エレクトロなど、多様なジャンルを縦横無尽に融合させた「ミクスチャーサウンド」です。この予測不能な展開と、時にシュールで、時にストレートな歌詞が、Z世代の多様性を重んじる価値観や、既成概念にとらわれない自由な精神と強く呼応しています。
ORANGE RANGEのメンバー自身が、彼らの音楽の真髄を語る言葉は、この共鳴の核心を突いています。
「ORANGE RANGE、バカやってるな~って思われたら本望」
引用元: 今すぐ「何者か」になりたいZ世代がヲタ活にはまるワケ…自分が | 集英社オンライン
この「バカやってるな~」という発言は、単なるユーモアや遊び心だけでなく、既存の枠組みや常識に囚われず、自分たちの「おもしろい」を追求するクリエイティブな姿勢を示しています。Z世代は、「自分らしさ」や「個性の表現」を非常に重視する世代です。SNSを通じて常に自己表現の機会を探し、多様な価値観を許容する彼らにとって、ORANGE RANGEの音楽が持つジャンルレスな自由さ、そして型にはまらない「バカ真面目さ」は、まさに理想的な表現形態として映るのかもしれません。この「脱構築的」とも言える音楽性は、固定観念にとらわれず、常に新しい表現を求めるZ世代の感性に深く刺さる普遍的な魅力を持っています。
4. 世代間コミュニケーションツールとしての「エモさ」と現役の活動
Z世代が親世代の青春時代の音楽に「エモさ」(=エモーショナル、懐かしさや感動)を感じる傾向は、ORANGE RANGEの再流行にも寄与しています。彼らにとって、ORANGE RANGEの楽曲は「親が聴いていた曲」という文脈で、一種の「懐かしくも新しい」体験を提供します。これは単なるノスタルジーではなく、親世代との共通の話題や、世代を超えたコミュニケーションのきっかけとなる「文化財」としての価値を帯びています。
さらに、ORANGE RANGEが現役のバンドとして活動を続けていることも、Z世代の注目を集める重要な要素です。メンバーのNAOTOさんがSixTONESの京本大我さんのソロ曲「Bunny Girl」の作詞・作曲・編曲を手がけたことは、その典型的な事例です。
同曲の作詞・作曲・編曲はORANGE RANGEのNAOTOが担当。
引用元: 「Bunny Girl」でAKASAKIは親に認められるのか? / 京本大我ソロ曲 …
人気アイドルグループの楽曲制作に関わることで、ORANGE RANGEはZ世代の新しいファン層にもその存在をアピールし、単なる「過去のバンド」ではなく、「現役で活躍するアーティスト」としてのイメージを刷新しています。このような世代を超えたコラボレーションは、音楽シーンにおける「相互浸透」を促し、新たなファンベースを構築する現代的な戦略としても評価できます。
令和の音楽シーンにおけるORANGE RANGEの意義と展望
ORANGE RANGEのZ世代における再流行は、単なる一過性のブームではなく、現代の音楽消費行動と文化の変容を象徴する多層的な現象です。彼らの楽曲が持つ普遍的な魅力、TikTokに代表されるSNSのコンテンツ拡散力、そして過去の楽曲に新たな価値を見出すZ世代の感性が複雑に絡み合い、このユニークな「再燃」現象を生み出しました。
これは、音楽産業にとって、従来の「新曲中心主義」から、「バックカタログの価値再認識」へとシフトする重要な示唆を与えています。過去の楽曲がデジタルの力で再評価され、新たな世代に受け継がれる「ロングテール」戦略の成功事例として、ORANGE RANGEのケースは今後のアーティストやレーベルの戦略立案において重要なモデルとなるでしょう。
「イケナイ太陽」や「おしゃれ番長」だけでなく、「上海ハニー」や「花」といった彼らの名曲が、Z世代によって「Z世代におすすめしたい夏ソング」として再発見されている事実は、彼らの音楽が時代や世代を超えて愛され続ける本質的な力を持っていることを証明しています。
『上海ハニー』や『花』などをはじめとした大ヒットナンバーを数多く世に送り出してきた5人組ロックバンド、ORANGE RANGE。
引用元: 人気急上昇中の音楽【2023年7月】|2ページ
ORANGE RANGEの再燃は、音楽が持つ時間軸を超越する力、そしてデジタルプラットフォームがその力をいかに増幅させるかを鮮やかに示しています。この令和の夏、ORANGE RANGEの「新たな夏」が、音楽文化の多様性と進化をさらに彩っていくことでしょう。彼らの音楽は、単なる過去のヒット曲ではなく、常に現在のリスナーに語りかける「生きた音楽」として、その輝きを放ち続けています。
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