2025年10月17日
日本の若者たちが直面している「生きづらさ」の根源は、単なる個人の資質や努力の問題に留まりません。それは、新型コロナウイルスのパンデミックが加速させた社会的孤立、都市部の安全保障の脆弱性、行政支援の非効率性、そして未来の社会保障負担といった、複合的な構造的課題に深く根ざしています。現在の日本社会、特に政府の政策対応は、これらの喫緊の問題解決に対し、十分な実効性を示せていない現状があると言わざるを得ません。本稿では、この深刻な事態を詳細に分析し、私たち社会全体が今、何を知り、どう行動すべきかを提言します。
1. 「失われた世代」の足音：日本の若者を蝕む構造的危機の深化
近年、日本の若者の間に蔓延する閉塞感と未来への不安は、「失われた世代」という言葉が現実味を帯びるほど深刻化しています。特に新型コロナウイルスの世界的なパンデミックは、彼らの人生設計と人的資本形成に甚大な影響を与えました。
世界銀行の報告は、この危機が国際的に、
新型コロナ危機は、ライフサイクルの中で人的資本構築にとって決定的に重要な時期に甚大な悪影響を与え、低・中所得国で数百万人に上る子供や若者の発育を妨げた、と世界銀行は指摘しています。
引用元: コロナの影響で若者が「失われた世代」となる恐れ
と述べていますが、この人的資本（教育、健康、スキルなど、個人の生産性を高める要素の総称）への悪影響は、教育機会の喪失、精神的健康の悪化、そしてスキル習得機会の減少として、日本においても顕著に現れています。例えば、非正規雇用の増加や就職氷河期世代の再来を思わせる経済状況、またデジタルデバイド（情報格差）の拡大は、若者のキャリア形成に長期的な負の影響を及ぼし、結果として経済成長の鈍化にも繋がりかねません。
さらに、若者の精神的健康は喫緊の課題です。ユニセフの調査からは、
米国および英国のデータを分析した結果、テクノロジーの利用は総合的には若者の精神的幸福度にマイナスの影響を与えるとされています。政府は社会政策によって子どもの幸福度を支えるべき、とも指摘されています。
引用元: ユニセフ レポートカード 16 「子どもたちに影響する世界 先進国の…」
と指摘されており、デジタルネイティブ世代である彼らが直面するSNS疲れ、サイバーいじめ、そして情報過多による不安増大といった問題が顕在化しています。日本においても、こども家庭庁の調査で、
昨日の感情について日本のこども・若者に10点満点で聞いたところ、他国と比べて決して高いとは言えない結果が出ています。
引用元: 我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査 （令和５年度）
という結果が示されています。これは、経済協力開発機構（OECD）が発表するウェルビーイング指標などと比較しても、日本の若者の主観的幸福度が国際的に低い水準にあることを示唆しています。彼らの「社会への信頼感」や「自己肯定感」、そして「将来への希望」が低い背景には、過度な競争社会、同調圧力、そして精神保健ケアへのアクセス不足といった、複合的な要因が存在すると考えられます。SNS上で散見される「この国に、自分の未来に希望がない」といった声は、これらの構造的課題が若者の心に深い傷を与えている現実を雄弁に物語っています。
2. 都市の影に潜む闇：社会病理としてのトー横キッズと薬物蔓延の構造
都市の煌びやかなネオンの裏側で、一部の若者たちは危険な社会病理と隣り合わせで生きています。新宿・歌舞伎町などで見られる「トー横キッズ」と呼ばれる若者たちの問題は、単なる非行ではなく、より深い社会構造の欠陥を露呈しています。彼らの多くは、家庭内での虐待、ネグレクト、貧困、あるいは学校での孤立といった複雑な背景を抱え、自己肯定感の低さや孤独感から、都市の闇に吸い寄せられてしまいます。
特に深刻なのが、彼らの間で蔓延する薬物問題です。インターネット上では、「フェンタニル」や「ゾンビタバコ」（合成カンナビノイド等を含む危険な薬物の通称）といった、非常に危険な薬物が流通しているという衝撃的な情報が拡散されています。フェンタニルは、本来医療用麻薬として厳重に管理されるべきものですが、違法に流通するものは不純物が多く、わずかな摂取量で死に至る可能性もある極めて危険な合成オピオイドです。若者は好奇心、同調圧力、あるいは現実からの逃避として薬物に手を出しやすく、SNSやダークウェブを通じた密売が、彼らの脆弱性を巧みに利用しています。
このような現状に対し、多くの大人が現状への戸惑いや怒りの声を上げています。
「小中学生とか衝撃的過ぎた。保護者は何してる？児童相談所は？教育委員会は？警察は？もっと大人がしっかりしないと。」
(コメント投稿者: @toacat5270 / 提供情報より)
といったコメントは、既存の支援機関、すなわち保護者、児童相談所、教育委員会、そして警察が、この問題に対して十分な連携や予防的介入ができていない実態を示唆しています。児童相談所のパンク状態やマンパワー不足、学校現場の薬物対応能力の限界は、この複雑な社会病理を解決するための壁となっています。
さらに、政策決定プロセスへの疑問も呈されています。
「約2年前からフェンタニルを国会で指摘していたのは参政党だけ」
(コメント投稿者: @ゲダツXYZ / 提供情報より)
「神谷さんが、国会でもうだいぶ前にフェンタニル指摘したのに、当時の政権や役人は無視した」
(コメント投稿者: @kame7umi137 / 提供情報より)
これらの声は、一部の専門家や政治関係者が以前から警鐘を鳴らしていたにも関わらず、政府や行政がその警告を軽視し、対策が後手に回っているのではないかという強い疑念を抱かせます。米国のフェンタニル危機への対応と比較しても、日本の法整備、取り締まり、そして予防啓発における遅れは明らかであり、危機管理の甘さや縦割り行政の弊害が、この深刻な問題の拡大を許容していると指摘せざるを得ません。
3. 「こども家庭庁」の影：巨額予算と政策効果の透明性・アカウンタビリティの欠如
若者たちの支援を一元的に担うはずの行政機関である「こども家庭庁」は、2023年の設立当初、子ども政策の司令塔として大きな期待を背負いました。しかし、その実効性に対しては、現場から厳しい目が向けられています。
多くの人々が、その機能不全を訴えています。
「本当に国は何もしてくれないな。子ども家庭庁なんていらん！」
(コメント投稿者: @ぃち5 / 提供情報より)
「子ども家庭庁さん仕事ここにありますよ」
(コメント投稿者: @アゲハント-x8k / 提供情報より)
これらの声は、設立理念である「こどもまんなか社会」と現場の現実との乖離、そして期待値に対する政策パフォーマンスの不足感を明確に示しています。理念先行で、具体的なアウトリーチや効果的な支援が伴っていないという批判は、行政機関が現場のニーズをどれだけ把握し、それに応えられているかという根本的な問いを突きつけています。
さらに、その巨額な予算の使途と費用対効果についても、深刻な疑念が噴出しています。
「5億円の救済措置で実際に措置してないと言う事は？中抜きしてどこかに流れてる子供家庭庁や中抜き過程庁をつぶせ！」
(コメント投稿者: @粗茶目のおじ / 提供情報より)
「5億かけて700人しか助けられないとか、どれだけ中抜きしてるんだろう…」
(コメント投稿者: @にじいろマカロン / 提供情報より)
これらのコメントが示す「中抜き」疑惑は、過去の行政事業における不透明な予算執行への国民の不信感の表れです。5億円という巨額の予算が投じられながら、具体的な支援対象者数が少ないという状況は、予算使途の透明性（transparency）と説明責任（accountability）が著しく欠如していることを意味します。複雑な支援ケースやアウトリーチの難しさといった側面もあるものの、これほど大きな疑念が生じることは、政策効果の検証体制と国民への情報開示が不十分であることの証左です。
こども家庭庁は、政府の報告書で、
児童の権利委員会においては、各国における、法律、政策または予算配分の提案が、こども・若者の権利に及ぼす影響について、継続的な評価を行うことが求められています。
引用元: こども・若者権利影響評価及び相談救済機関にかかる 調査研究 報告書
と、国連・子どもの権利条約に基づく「こども・若者権利影響評価（Child Rights Impact Assessment: CRIA）」の重要性を認識しています。しかし、巨額の予算が投じられているにもかかわらず、現場の若者のSOSに十分に応えられていない現状は、CRIAが政策立案段階から適切に実施され、その結果が予算配分や政策遂行に反映されているのかという疑問を抱かせます。真の意味で若者の権利が保障され、彼らが恩恵を受けられる仕組みへと早急に改善することが急務です。
4. 2025年問題と移民政策：若者にのしかかる未来の構造的重荷
若者たちが直面しているのは、現在の問題だけではありません。数年後に迫る「2025年問題」は、彼らの未来に構造的な重荷としてのしかかることが懸念されています。
日本財団ジャーナルの記事が指摘するように、
超高齢化社会を迎える2025年、日本人口の5人に1人が75歳以上の後期高齢者になるという状況が予測されています。これにより、労働力不足、医療人材不足、社会保障費の増大といった課題が深刻化します。
引用元: 迫る2025年問題とは？労働力不足、医療人材不足、社会保障費の増大 | 日本財団ジャーナル
この予測は、賦課方式（現役世代が払った保険料で、現在の高齢者を支える方式）を基盤とする日本の年金・医療・介護保険制度において、現役世代である若者たちの社会保障負担が爆発的に増大することを意味します。既に日本の社会保障費は国家予算の約3分の1を占めており、この負担増は若者の手取り収入を減少させ、結婚・出産、住宅購入といったライフイベントのハードルをさらに高め、将来不安を一層募らせるでしょう。経済協力開発機構（OECD）も日本の社会保障制度改革の必要性を再三提言しており、この世代間格差の是正は不可欠です。
さらに、労働力不足を補うための移民政策も、日本の若者の雇用機会に影響を与える可能性があり、慎重な検討が求められます。英国の事例ですが、
移民政策に関する政府の諮問機関（MAC）は、移民労働者の国内の労働市場への影響に関する報告書を公表し、過去の事例では移民流入により国内労働者の雇用が減少したケースが指摘されています。
引用元: 移民流入により国内労働者の雇用が減少 ―政府諮問機関レポート
労働経済学における議論では、移民労働者が国内労働者の雇用を代替する「代替効果」と、既存の労働力と補完し合う「補完効果」の二面性があります。日本においても、特定技能制度などの外国人労働者受け入れが進む中で、これが若者の雇用機会や賃金水準にどのような影響を与えるのか、緻密な分析と政策設計が不可欠です。単なる労働力確保だけでなく、社会統合、多文化共生といった側面からの総合的な政策検討が欠かせません。
国内の喫緊の課題を抱える一方で、
「海外支援する前に日本の若者をどうにかするのが先なんじゃないの…」
(コメント投稿者: @nemurerumori11 / 提供情報より)
といった国民の声も聞かれます。これは、国際社会における日本の責任と、国内の若者問題への優先順位付けに関する国民の素朴な疑問を反映しています。確かに国際通貨基金（IMF）の報告書では、
IMFは技術革新というテーマに関して、日本政府による手厚い資金提供を受けています。
引用元: 2019年度 IMF年次報告書; 私たちのつながった世界
と示されており、日本が国際的な貢献を続けることは重要です。しかし、この国際貢献と、国内の若者の未来への投資とのバランスをどのように取るのか、国民への説明責任が強く求められる現状が浮き彫りになっています。技術革新への国際的投資は長期的に日本の競争力や若者の雇用機会創出に繋がる可能性はありますが、目先の若者支援とのバランスが、国民の納得感を得る上で重要な課題であると言えるでしょう。
5. 未来を諦めないために：社会変革への多層的アプローチ
今回、日本の若者たちを取り巻く深刻な現状と、それに対する政府の課題を深掘りしてきました。パンデミックが加速させた社会的孤立、都市の闇に潜む危険、行政支援の非効率性、そして迫りくる社会全体の負担増大など、これらは決して他人事ではなく、日本社会の健全性そのものが問われています。この構造的危機は、私たち一人ひとりの未来にも直結する喫緊の課題です。
しかし、絶望ばかりではありません。私たち一人ひとりがこの現実に関心を持ち、声を上げ、具体的な行動を起こすことが、未来を変えるための第一歩となります。
- 現状を深く理解する: まずは、偏見なく信頼性の高い情報源から情報を収集し、若者たちが置かれている状況を社会学的な視点や統計リテラシーをもって多角的に理解することが重要です。単一の意見に流されず、事実に基づいた分析を心がけましょう。
- 政策形成への参画と声を上げる: 私たちの声を、政策立案者や行政機関に具体的な形で届けることが重要です。SNSでの意見表明だけでなく、選挙への積極的な参加、陳情活動、地方議員や国会議員への政策提言、あるいは市民団体を通じたロビー活動など、多様な方法で政治的意思決定プロセスに影響を与えることができます。具体的なデータや事例に基づいた提言は、政策を変える大きな力となります。
- 具体的な行動を通じて支援する: 地域社会において、若者を直接支援する NPO やボランティア団体、子ども食堂などに目を向け、できる範囲でサポートすること。寄付、ボランティア活動、あるいは自身の専門スキルを活かしたプロボノ活動（専門家が職業上持っている知識やスキルを活かして行うボランティア活動）など、関わり方は多岐にわたります。また、若者自身が社会課題解決に携わる社会起業家精神を育むための支援も重要です。
未来を担う若者たちが、希望を持てない社会であってはなりません。彼らのSOSを、今こそ真正面から受け止め、彼らが笑顔で夢を語れる日本を、私たち大人が共に創り上げていく責任があります。政策立案者、NPO、市民社会、そして若者自身が連携し、教育、精神保健、地域支援、そして経済政策といった多層的なアプローチでこの構造的課題に取り組む必要があります。彼らの未来は、私たちの手にかかっています。
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