U-17日本女子代表、通称「リトルなでしこ」が、モロッコで開催中のU-17女子ワールドカップにおいて、コロンビアに4-0という圧巻の勝利を収め、ベスト8進出を果たした。この快挙は、単なる一試合の勝利に留まらず、日本の女子サッカーが国際舞台で通用する確固たる実力と、洗練された戦略的アプローチを確立したことを力強く証明するものである。本稿では、この勝利の背景にある戦術的深掘り、個の能力の進化、そして次なる強敵・北朝鮮戦への展望を専門的な視点から詳細に分析し、リトルなでしこが示す「日本女子サッカーの進化」の真髄に迫る。
1. 勝利のメカニズム:戦術的優位性と個の絶対的貢献
コロンビア戦の4-0というスコアは、偶然の産物ではない。試合展開の要約にあるように、日本は立ち上がりから主導権を握り、テンポの良いパスワークで相手を圧倒した。この戦術的優位性を分解すると、以下の要素が浮かび上がる。
1.1. 「ボール保持」を起点とする「非保有時」の即時奪回能力:進化するビルドアップとトランジション
日本のポゼッションサッカーは、単にボールを保持するだけではない。現代サッカーにおける「ボール保持」は、相手の守備ブロックを動かし、スペースを創出するプロセスであり、その効率性はビルドアップの質に依存する。リトルなでしこは、GKを含む最終ラインからの丁寧なボール繋ぎ、中盤での数的優位の創出、そしてサイドバックの効果的なオーバーラップといった、洗練されたビルドアップパターンを披露した。
特筆すべきは、「非保有時」の即時奪回能力である。ボールを失った瞬間に、周囲の選手が連動してプレッシャーをかけ、短時間でボールを奪い返す「ゲーゲンプレッシング」の精度が極めて高かった。これにより、相手にカウンターの機会を与えず、むしろ奪ったボールをそのまま攻撃に繋げることで、二次的な攻撃機会を創出していた。これは、単に「ボールを奪う」という守備戦術に留まらず、「ボールを失った後のポジショニングと連動性」という、より高度な戦術理解と実践能力を示している。
1.2. 決定機創出と得点パターンの多様性:個の「質」と「局面打開」
攻撃面では、大野羽愛選手の先制点、福島望愛選手の2ゴール、中村心乃葉選手のゴールが、それぞれ異なる形での得点パターンを示唆している。
- 大野選手の先制点: 中央からの崩しは、相手の守備ライン間のスペースを的確に突き、予測不能なタイミングでボールが供給された結果である。左足のコントロールショットは、GKの反応を誘うだけでなく、コースの正確性においても高い技術を要する。
- 福島選手の2点目: 式田選手のクロスは、精度だけでなく、相手DFの意表を突くタイミングと軌道であった。福島選手のダイレクトシュートは、ボールの落下地点を正確に予測し、相手DFのクリアのタイミングを奪う洗練されたプレーである。
- 中村選手の3点目: 須長選手のお膳立ては、相手DFラインの背後を狙うパスの精度と、中村選手のオフザボールの動き出しの質が噛み合った結果である。
- 福島選手の4点目: 松岡選手の「アシスト」は、単なるパスではなく、相手DFを引きつけ、的確なタイミングで味方にボールを預ける「局面打開」の能力を示す。福島選手の左足アウトのシュートは、GKのポジショニングを逆手に取る、予測不能な軌道であり、個の創造性と技術力の高さを示している。
これらのゴールは、チームとしての組織的な崩しと、個々の選手の高い決定力、そして「局面打開」能力が融合した結果であり、相手守備陣にとっては対応が困難な、多角的で破壊力のある攻撃を展開できたことを物語っている。
2. 成長の軌跡:「日本らしさ」の再定義と国際標準への適合
「リトルなでしこ」の強さは、単に個々の能力の高さだけではなく、日本女子サッカーが長年培ってきた「日本らしさ」を、国際標準へと昇華させている点にある。
2.1. ポゼッションサッカーの進化:単なる「維持」から「攪乱」へ
かつて日本のポゼッションサッカーは、「ボールを失わないこと」に重点が置かれがちであった。しかし、近年のリトルなでしこは、ボールを保持しながらも、相手守備陣を「攪乱」し、意図的にギャップを作り出すことを目的としている。テンポの良いパスワークは、相手の組織を崩すための「情報量」を増大させ、DFラインの隙間や中盤のハーフスペースを効果的に突くことで、決定機を創出している。これは、単にボールを回すのではなく、「相手をどう動かし、どこにスペースを作るか」という、より高度な戦術的思考に基づいたプレーである。
2.2. 攻守の切り替えにおける「強度」と「インテンシティ」
現代サッカーにおいて、攻守の切り替えは勝敗を分ける重要な要素である。リトルなでしこは、この切り替えにおける「強度」と「インテンシティ」を徹底している。ボールを失った瞬間の即時奪回はもちろんのこと、攻撃に転じる際も、ボール奪取から数秒で相手ゴールに迫る、そのスピード感は目を見張るものがある。これは、選手個々のフィジカル能力の向上と、チーム全体での「連動性」の訓練が結実した結果と言える。
2.3. 個の輝き:多様なスキルセットと「自己完結型」のプレーヤー
大野、福島、中村といった選手たちの活躍は、個々の選手が多様なスキルセットを有し、かつ「自己完結型」のプレーヤーへと成長していることを示唆している。つまり、ボールを持った際に、ドリブル、パス、シュートといった複数の選択肢を持ち、自ら局面を打開できる能力である。これは、育成年代における個の技術指導の質の向上と、選手一人ひとりの「判断力」と「決断力」を育む環境が整っている証拠と言える。
3. 次なる激戦:北朝鮮戦に見る「日本女子サッカーの真価」
ベスト8進出は、あくまで通過点である。次戦の相手、前回大会チャンピオンであり、今大会も優勝候補筆頭とされる北朝鮮は、リトルなでしこにとって試金石となる。
3.1. 北朝鮮の脅威:フィジカル、組織、そして決定力
北朝鮮の強さは、そのフィジカルの強さを前面に押し出した、組織的かつダイナミックなサッカーにある。相手選手との「デュエル」(1対1の局面)における強さ、セカンドボールへの執着心、そしてセットプレーからの得点力は、過去の対戦成績からも明らかである。彼らの守備は、コンパクトなブロックを形成し、ボールホルダーに対して複数人でプレッシャーをかけ、ボール奪取後は素早いカウンターで相手ゴールに迫る。
3.2. 「クジ運の悪さ」ではなく、「優勝への最短ルート」
「クジ運が悪い」という声は、大会の組み合わせにおける強豪との早期対戦を指している。しかし、これは見方を変えれば、「真の強豪」と早期にぶつかることで、自分たちの現在地を正確に把握し、さらなる成長を促す絶好の機会である。グループステージを1位で突破したからこそ、これらの強豪と対戦する権利を得ているのであり、優勝を目指すのであれば、これらの壁を乗り越えなければならない。むしろ、これは「日本女子サッカーの真価」が問われる、最もエキサイティングな舞台と言えるだろう。
3.3. 北朝鮮攻略への鍵:戦術的柔軟性と「個」の活用
北朝鮮のフィジカルと組織力に対抗するには、日本が培ってきた「速さと正確さ」、そして「個の創造性」を最大限に活かす必要がある。
- 「間」の利用: 北朝鮮のプレッシャーの「間」を正確に読み、スルーパスや浮き球を効果的に活用することで、DFラインの背後を突く。
- サイドからの崩しと中央への侵入: サイドバックの攻撃参加による幅の創出、そして中央での素早いパス交換による相手守備のズレを生み出す。
- 個の「打開」: 1対1の局面で、相手DFを剥がし、シュートや決定的なパスに繋げる個の能力が、北朝鮮の強固な守備をこじ開ける鍵となる。
この試合は、リトルなでしこが、単なる「パスサッカー」に留まらず、相手の強みを理解し、それにどう対応していくかという「戦術的柔軟性」を発揮できるかどうかが問われる。
4. 未来への希望:リトルなでしこが灯す「日本女子サッカーの灯火」
リトルなでしこがベスト8に進出したという事実は、日本の女子サッカー界にとって、単なる一過性の成功ではなく、確固たる進化の証である。コロンビア戦で見せたパフォーマンスは、選手個々の技術、戦術理解、そしてメンタリティが、国際レベルで通用する水準に達していることを明確に示した。
次戦の北朝鮮戦は、この進化の過程における重要な「試練」となる。この激戦を制することで、リトルなでしこは、世界に「日本女子サッカーの強さ」を改めて印象づけ、未来のなでしこジャパンへの確かな希望の灯火を灯すことになるだろう。彼女たちの活躍は、若い世代の少女たちに夢と目標を与え、日本の女子サッカーのさらなる発展を牽引していくに違いない。この輝きに、引き続き熱い声援を送りたい。


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