結論:現代の高校生が求めるリーダー像は、従来の政治的枠組みを超越し、安定・変革の二律背反を抱えつつ、多様な情報源から得られる人間性、影響力、具体的な政策への共感に基づいて形成される多層的なものである。これは、既存政治への複雑な感情と、自ら社会変革を志向する当事者意識の表れであり、次世代の政治意識の変容を明確に示唆している。
導入
現代社会において、若年層の政治的関心と社会に対する意識は、情報化の進展と共に多様化と複雑化の一途を辿っています。彼らの声は、今後の日本社会の方向性を決定づける上で不可欠な羅針盤となります。特に、次世代を担う高校生たちがどのようなリーダー像を求めているのかは、政治学、社会学、教育学といった多角的な視点から分析されるべき喫緊の課題です。
この度、ワカモノリサーチが全国の現役高校生を対象に実施した「いま日本の総理大臣になってほしい人」調査の結果が公開されました。本調査は、当時の石破首相辞任表明という政治的転換期において実施されたため、その回答には既存の政治家に対する期待と同時に、スポーツ選手、著名なYouTuber、さらには「自分」自身が上位にランクインするという、若者たちの既存の政治システムに対する政治的効力感(Political Efficacy)の現状と、新たなリーダーシップへの渇望が鮮明に表れています。彼らが理想とするリーダー像の深層に迫ることで、現代の高校生が社会や政治に何を求めているのか、その多層的な価値観を解き明かします。
1. 調査概要と背景:政治的空白と若者の意識形成
本調査は、ワカモノリサーチによって全国の現役高校生を対象に実施されました。情報開示が限定的であるものの、調査対象が現役高校生に限定されている点、そして無記名式であることが、彼らの本音を引き出す上で重要な要素であったと考えられます。
特筆すべきは、調査が「石破首相が辞任を表明した中」という政治的真空期に実施された点です。このようなリーダーシップの移行期は、有権者、特に政治参加経験の少ない若年層が、現状の政治システムを評価し、新たなリーダーシップに何を求めるかを強く意識する機会となります。通常、政治的安定期には既存の枠組み内での選択肢が優勢となることが多いですが、不安定期においては、既存の枠外の人物や、場合によっては「自分自身」といった、より根本的なリーダーシップの再定義を求める傾向が強まることが、政治心理学的に示唆されます。この背景が、今回のランキングにおける多様な顔ぶれを生んだ主要因の一つと分析できます。
2. 高校生が選ぶ「理想の総理大臣」ランキングTOP10
今回の調査で明らかになった「いま日本の総理大臣になってほしい人」の上位ランキングは以下の通りです。
| 順位 | 人物名(敬称略) | 支持率 |
| :— | :—————– | :——- |
| 1位 | 安倍晋三 | 13.0% |
| 2位 | 自分 | 6.5% |
| 3位 | 小泉進次郎 | 5.9% |
| 4位 | HIKAKIN | 4.5% |
| 5位 | 玉木雄一郎 | 4.0% |
| 6位 | 大谷翔平 | – |
| 7位 | 石破茂 | – |
| 8位 | 山本太郎 | – |
| 9位 | 石丸伸二 | – |
| 10位 | ひろゆき | – |
※6位以下の支持率は詳細情報に記載がありませんでした。
このランキングは、政治家(安倍、小泉、玉木、石破、山本、石丸)、非政治的分野の著名人(HIKAKIN、大谷、ひろゆき)、そして「自分」という、三つの異なるリーダーシップ像が混在しているという点で極めて象徴的です。これは、現代の高校生がリーダーシップを評価する際に、伝統的な政治的功績や所属政党といった従来の基準だけでなく、多様な情報源から得られる人間性、影響力、そして具体的な共感といった多面的な要素を統合していることを示唆しています。
3. ランキング上位者の評価ポイント:多角的な分析と洞察
第1位:安倍晋三元首相 – 安定への回帰願望とグローバル・リーダーシップへの期待
13.0%の支持を集めた安倍晋三元首相は、長期政権がもたらした「安定感」や「政策実現能力」が高く評価されています。コメントに見られる「安倍内閣の時が一番平和だった気がするから」といった意見は、現在の国際情勢や国内の社会経済的不安に対する現状への不不満と過去への懐古的安定志向の表れと解釈できます。
さらに、「トランプ大統領ともいい関係を築けていた」「すごく外交が上手で世界との関係を上手く築いてきた人」といった評価は、複雑化するグローバル社会において、卓越した外交手腕と国際的プレゼンスを発揮できるリーダーへの強い期待を示唆しています。これは、国際関係論における「リーダーシップの国際的側面」を若年層も直感的に捉えている証拠であり、日本の国益を国際社会で確保できる能力が、彼らにとって重要なリーダーの資質と認識されていると言えるでしょう。
第2位:「自分」 – 政治的効力感の二極化とシチズンシップの萌芽
6.5%の高校生が「自分」と回答したことは、今回の調査で最も重要な洞察を提供します。この回答の背景には、「誰が(総理大臣を)やっても日本は変わらないから」「政治に期待しても仕方がない」といった、既存の政治システムに対する内発的政治的効力感(Internal Political Efficacy)の低さ、すなわち「自分の政治参加が社会を変える力を持つ」という感覚の希薄化が一部に存在することがうかがえます。これは、政治不信の深刻な兆候として、政治学的に懸念されるべき点です。
しかし一方で、「自分で経済を回してみたい」「無駄のない国を作りたいから」といった意見は、単なる政治不信に留まらず、高い志と当事者意識(Civic Engagement)の表れでもあります。これは、Z世代が持つとされる「社会課題解決への高い意欲」や、シチズンシップ教育の浸透といった要素が複合的に作用し、既存の政治家が期待に応えられないならば「自らが動く」という主体的な姿勢へと繋がっていると解釈できます。この二極化した感情は、若者の政治参加の新たな形態を模索する上で重要な示唆を与えます。
第3位:小泉進次郎農林水産大臣 – 若さと斬新さへの期待、そしてメディア戦略
現役政治家の中で最も高い支持(5.9%)を得た小泉進次郎氏は、「やっぱ若さがある」「危うさはあるけど若いからよさそう」といった「若さ」への期待が集まっています。これは、従来の権威主義的な政治リーダーシップに対する若者層のアンチテーゼであり、世代交代への潜在的ニーズを強く示唆しています。
「おもろいし斬新なアイデアを出してくれそう」という声は、既存の政治的枠組みに囚われないイノベーション能力への期待を表しています。また、「小泉構文とか言われているけれど言っていることは正確だから」といった評価は、彼の個性的なメディア戦略が、若者層のメディアリテラシーによってパフォーマンスと本質を切り分けて受け止められている可能性を示唆します。これは、政治家が若年層にメッセージを届ける上での、表現方法の多様性と受容側の分析的視点の重要性を浮き彫りにしています。
第4位:HIKAKIN氏 – インフルエンサー型リーダーシップと共感倫理
YouTuberとして絶大な影響力を持つHIKAKIN氏が4.5%の支持を集めたことは、現代社会におけるリーダーシップ概念の変容を象徴しています。彼の支持は、「社会貢献度や活動で印象が良い」「世の中をよく理解している」といった、共感性(Empathy)と社会課題への敏感さに基づいています。
さらに、「プライベートでも嘘が少なく間違えたらすぐに謝罪する姿勢」といった評価は、政治家に対する透明性と説明責任への強い要求の裏返しであり、倫理的な行動様式や誠実な人柄が、政治的リーダーシップにおける新たな信頼の基盤となっていることを示唆します。これは、伝統的なカリスマ型リーダーシップではなく、サーバント・リーダーシップや倫理的リーダーシップといった現代的リーダーシップ理論が、若者層の間で直感的に支持されている現象と捉えられます。
第5位:玉木雄一郎国民民主党代表 – プラグマティズムとミクロ経済政策への関心
野党の中で最も高い支持(4.0%)を得た玉木雄一郎氏への支持は、「国民民主党の政策がいいと思ったから」という具体的な政策への共感に根差しています。特に「103万の壁をなくしてほしいから」といった、若者のアルバイトやパート収入、ひいてはその家族の生活に直結するミクロ経済政策への関心が、支持につながったものと考えられます。
103万の壁: 配偶者控除が適用されなくなる年収のボーダーライン。アルバイトやパートで働く人が、税金上の扶養から外れないよう年収を103万円以下に抑えることが多いことからこのように呼ばれる。
これは、若年層が抽象的なイデオロギーよりも、プラグマティック(実利的)な視点から、自身の生活環境や将来設計に直接的な影響を与える政策を重視する傾向の表れです。この傾向は、今後の政治が若者の支持を得る上で、具体的な生活課題へのソリューション提示が不可欠であることを示唆しています。
4. その他の注目すべきランクイン:多角的な評価軸の拡張
ランキングには、上記以外にも多様な顔ぶれが並び、高校生のリーダーシップ評価軸の広がりを浮き彫りにしています。
- 第6位:大谷翔平選手: 世界的な活躍を見せるスポーツ選手がランクインしたことは、その国際的な知名度、圧倒的な実績、そして困難を乗り越える精神力(レジリエンス)が、分野を超えてリーダーシップの資質として評価されていることを示唆します。これは、目標達成能力、自己管理能力、そしてグローバルな視野が、現代のリーダーに求められる汎用的な能力として認識されていることの表れです。
- 第10位:ひろゆき氏: 著名な論客として知られるひろゆき氏のランクインは、既存の言説を相対化し、本質を突く論理的な思考力や批判的思考力、そして既存の枠にとらわれない発言力に、若者が共感を寄せている可能性を示しています。これは、情報過多社会において、複雑な事象をシンプルに、かつ論理的に整理し、本質を突く「脱構築」の能力が、リーダーシップの新たな魅力として認識されている現象と解釈できます。
これらの結果は、高校生が理想とするリーダーシップが、伝統的な政治の枠組みや、単なる政策能力にとどまらず、人間性、共感性、影響力、論理的思考力、そしてグローバルな視点といった多角的な資質から評価されていることを浮き彫りにしています。
5. ランキングから読み取れる現代高校生の価値観の深層
今回の調査結果からは、現代の高校生がリーダーに求める価値観が極めて多岐にわたり、かつ複雑な構造を持つことが読み取れます。
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安定と変革への両義的な期待(パラドックス): 安倍元首相への支持に見られる「安定志向」と、小泉進次郎氏や「自分」への支持に見られる「変革志向」は、一見相反する価値観です。しかし、これは「現在の不安定な状況を安定させたいが、同時に現状を打破し新しい未来を創造したい」という、若者特有の複雑な社会感情を反映しています。彼らは、過去の成功モデルから安心感を求めつつ、未来への閉塞感を打破するための新しいアプローチも同時に求めているのです。
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情報源の多様化とリーダーシップ評価軸の拡張: テレビや新聞といった伝統的なメディアだけでなく、YouTube、SNS、Web記事といった多様な情報源から人物像を形成する現代の高校生にとって、リーダーの評価軸は政治的功績に限定されません。HIKAKIN氏や大谷選手、ひろゆき氏のランクインは、メディアを通じて知る個人の人間性、社会貢献度、倫理観、そして発信力が、政治的リーダーシップの資質として強く認識されていることを示唆します。これは、若者層のメディアリテラシーが向上している一方で、情報の「質」や「信憑性」を評価する新たなフレームワークが求められていることの表れでもあります。
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具体的な政策への実践的関心: 玉木雄一郎氏への支持が示すように、抽象的な理念やイデオロギーよりも、自身の生活や将来に直結する具体的な経済政策や社会制度の改善への関心が非常に高いことが特徴です。これは、政治参加の動機が、より個人的なレベルでの「ウェルビーイング」の実現へとシフトしている可能性を示唆します。
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共感力と誠実さの重視: HIKAKIN氏の例が示すように、社会全体を理解し、誠実な姿勢を持つ人物がリーダーとして好まれる傾向は、政治家に対する「信頼回復」への強い願望を反映しています。感情知能(EQ)の高さや、透明性、説明責任といった資質が、政策能力と同等かそれ以上に評価される傾向は、現代の倫理的リーダーシップの要件に合致しています。
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政治的効力感の再定義と社会参加への意欲: 「自分」が2位にランクインしたことは、既存の政治システムへの不満や無力感を抱えつつも、同時に「自らが社会を変えうる主体である」という内発的な社会変革意欲を強く持っていることを示しています。これは、従来の投票行動に限定されない、NPO活動やボランティア、SDGsへの関与といった、新たな形態のシチズンシップ(市民性)の萌芽と捉えることができます。
結論:若者の声が拓く、次世代のリーダーシップ像
ワカモノリサーチが実施した高校生への調査は、現代の若年層が抱く多様かつ複雑なリーダーシップ像を鮮やかに描き出しました。安倍晋三元首相の安定感と外交手腕への評価から、「自分」が日本の未来を担うという内発的意欲、小泉進次郎氏の若さと斬新さ、HIKAKIN氏の社会貢献度と誠実さ、さらには大谷翔平選手やひろゆき氏といった多分野の著名人への期待。これらは、従来の政治家像だけでは捉えきれない、現代のリーダーシップに対する新たな、そしてより包括的な視点を提供しています。
若者たちの声は、現状への期待と不満、そして未来への希望が複雑に絡み合っていることを示唆しています。彼らが多様な分野で活躍する人物にリーダーシップを見出す背景には、政策能力だけでなく、人間性、発信力、共感、倫理観、そしてグローバルな視野といった多面的な資質への評価があると言えるでしょう。これは、リーダーシップが「特定の役職」に限定されるものではなく、社会全体に影響を与え、課題解決に貢献する「機能」として認識されていることの表れです。
この調査結果は、今後の日本社会のあり方、リーダーシップ教育、そして政治のコミュニケーション戦略を考える上で、極めて重要な示唆を与えてくれます。Z世代、そして続くα世代の政治的関心は決して低くなく、むしろ彼らが求めるリーダーシップ像は、既存の枠組みを超えた、より広範で、より倫理的、そしてより実践的なものへと進化しています。若者たちの声がこれからの社会を形作る上でどのように影響していくのか、そして彼らの持つ社会変革へのポテンシャルをいかに政治や社会が受け止め、具体的な行動へと繋げていくのか、引き続き専門的な視点からの深い考察と議論が求められます。
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