結論:エンゼルスを含む9球団の放映権契約解除は、MLBの地域スポーツ中継ビジネスモデルが抱える根深い問題を露呈した結果であり、リーグはストリーミング中心の新たな戦略への移行を加速せざるを得なくなった。この事態は球団格差の拡大、ファン視聴体験の変化、そしてMLB全体の収益構造に長期的な影響を与えるだろう。
1. RSN崩壊の構造的背景:ケーブルTVの終焉とストリーミングの台頭
エンゼルスを含む9球団の放映権契約解除の直接的な原因は、FanDuel Sports Network(旧Diamond Sports Group)によるカージナルスへの支払い遅延だが、これは氷山の一角に過ぎない。根本的な問題は、地域スポーツネットワーク(RSN)のビジネスモデルの崩壊である。
1980年代から2000年代にかけて、RSNはケーブルテレビの普及とともに隆盛を極めた。地域住民にローカルチームの試合を届け、ケーブル会社から加入者数に応じた収入を得るというビジネスモデルは、球団とケーブル会社双方にとって有益だった。しかし、2010年代以降、ケーブルテレビの解約(コードカッティング)が加速し、RSNの収益基盤は急速に悪化。2010年から2020年の間に、米国のケーブル加入者数は約3分の1に減少した。
この状況下で、ストリーミングサービスの台頭がRSNの苦境をさらに深めた。ESPN+、YouTube TV、Hulu + Live TVなどのストリーミングサービスは、ケーブルテレビよりも安価で柔軟な視聴オプションを提供し、多くの視聴者を奪った。RSNはストリーミングサービスへの参入を試みたものの、既存の契約や技術的な課題、そしてコンテンツの権利関係の複雑さから、十分な競争力を発揮できなかった。
Diamond Sports Groupの破産は、この構造的な問題の象徴的な出来事である。同社は、RSNの運営において多額の負債を抱え、資金繰りに苦しんでいた。再ブランド化されたFanDuel Sports Networkも、根本的な問題の解決には至らなかった。
2. MLBの介入と自社放送戦略:データに基づいた最適化の追求
MLBは、Diamond Sports Groupがパドレスなど複数球団の支払いを滞らせた際、放映権を自社で引き継ぎ、放送を継続してきた実績がある。今回の9球団についても、同様の対応が予想される。コミッショナーのママンフレッド氏が「ファンは試合を見ることができる」とコメントしているように、ファンへの試合視聴機会の確保は最優先事項である。
しかし、MLBの介入は一時的な措置に過ぎない。長期的な視点で見ると、MLBは自社で制作・配信を行うことで、より柔軟な放映戦略を展開できるようになる。具体的には、以下の戦略が考えられる。
- MLB.TVとの連携強化: MLB.TVは、MLBの公式ストリーミングサービスであり、全試合をライブ配信している。MLBは、MLB.TVの機能を強化し、より魅力的なコンテンツを提供することで、加入者数を増やすことを目指すだろう。
- 新たなプラットフォームとの提携: Amazon、Apple、Googleなどの大手テクノロジー企業との提携も視野に入れる。これらの企業は、豊富な資金力と技術力を持っており、MLBのストリーミング戦略を加速させる上で重要なパートナーとなる可能性がある。
- データに基づいた価格設定とターゲティング広告: MLBは、視聴者のデータ分析に基づいて、価格設定や広告配信を最適化することで、収益を最大化することを目指す。例えば、特定のチームのファンに対して、より高額な料金で試合を配信したり、特定の製品やサービスの広告をターゲティング配信したりすることが考えられる。
- 国際市場への展開: MLBは、国際市場での放映権収入を増やすために、積極的に海外展開を進める。特に、アジアやラテンアメリカなどの成長市場に注力し、現地の言語で試合を配信したり、現地のスター選手を起用したりすることで、ファン層を拡大することを目指す。
3. 球団格差の拡大と収益分配の課題:競争均衡への影響
今回の放映権契約解除は、球団格差をさらに拡大させる可能性がある。放映権収入は、球団の運営資金の重要な柱であり、選手の獲得や育成、球場改修などに充てられる。放映権収入が減少した球団は、資金繰りに苦しみ、競争力を失う可能性がある。
MLBと選手会は、2024年について、地元メディア収入が減少した球団に対し、最大1500万ドルの資金配分を認める合意をしたが、これはあくまで一時的な措置であり、根本的な解決策とは言えない。2025年以降の合意は未定であり、今後の交渉が注目される。
MLBは、球団格差を是正するために、以下の対策を講じる必要がある。
- 収益分配制度の見直し: 放映権収入をより公平に分配する制度を導入する。例えば、放映権収入の多い球団から、放映権収入の少ない球団への資金援助を義務付けることが考えられる。
- 競争均衡税の強化: 競争均衡税は、選手の年俸総額が多い球団から、選手の年俸総額が少ない球団への資金援助を行う制度である。競争均衡税の税率を引き上げたり、税金の使途を明確化したりすることで、競争均衡税の効果を高めることができる。
- 下位球団への投資: MLBは、下位球団への投資を積極的に行う。例えば、下位球団の球場改修費用を補助したり、下位球団の育成システムを強化したりすることが考えられる。
4. 大谷翔平への影響とスター選手の価値:マーケティング戦略の転換
エンゼルスは、大谷翔平選手が所属していた球団であり、今回の放映権契約解除は、エンゼルスのチーム強化を遅らせる可能性があり、スター選手の獲得や育成が難しくなるかもしれない。
しかし、大谷選手自身は、ドジャースに移籍しており、今回の問題は直接的には影響しない。むしろ、大谷選手のドジャース移籍は、MLB全体のマーケティング戦略の転換を促すきっかけとなる可能性がある。
大谷選手は、野球界で最も注目を集めるスター選手であり、その存在はMLBの収益に大きな影響を与える。ドジャースは、大谷選手を獲得することで、チケット収入、グッズ販売、放映権収入などを大幅に増やすことができる。
MLBは、大谷選手のようなスター選手を育成し、積極的にプロモーションすることで、ファン層を拡大し、収益を増やすことができる。そのためには、下位球団の育成システムを強化し、スター選手の育成を支援する必要がある。
5. まとめと今後の展望:リーグの持続可能性とファンの体験
エンゼルスを含む9球団の放映権契約解除は、MLBのビジネスモデルの転換期となる出来事である。ストリーミングサービスの台頭やケーブルテレビの衰退といった時代の変化に対応するため、MLBは、新たな放映戦略を模索する必要がある。
ファンにとっては、試合の視聴環境が変化する可能性があるが、MLBコミッショナーが「ファンは試合を見ることができる」と保証しているように、試合視聴機会の確保は最優先されるだろう。しかし、従来のケーブルテレビ中心の視聴環境から、ストリーミング中心の視聴環境への移行は、ファンにとって新たな負担となる可能性もある。例えば、ストリーミングサービスの利用料金を支払う必要がある場合や、インターネット環境が整っていない地域では、試合を視聴することが困難になる場合がある。
MLBは、ファンの視聴体験を向上させるために、以下の対策を講じる必要がある。
- ストリーミングサービスの料金の低減: ストリーミングサービスの料金を低減することで、より多くのファンが試合を視聴できるようになる。
- インターネット環境の整備: インターネット環境が整っていない地域に対して、インターネット環境の整備を支援する。
- オフライン視聴機能の提供: ストリーミングサービスにオフライン視聴機能を提供することで、インターネット環境が整っていない地域でも試合を視聴できるようになる。
MLBは、ストリーミングサービスとの連携を強化し、より多くのファンに試合を届けられるような仕組みを構築していくことが求められる。そして、球団格差を是正し、全ての球団が競争できる環境を整えることが、MLB全体の発展につながると考えられる。今回のニュースは、MLBファンにとって衝撃的な出来事でしたが、同時に、MLBが新たな時代に向けて進化していくためのチャンスでもあります。リーグの持続可能性とファンの体験向上を両立させることが、今後のMLBの課題となるだろう。


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