2025年10月04日
2025年シーズン、読売ジャイアンツ、通称「阿部巨人」は、セ・リーグ優勝という栄光から一転、首位阪神タイガースに15ゲーム差をつけられたリーグ3位という結果に終わった。昨シーズン、クライマックスシリーズでの敗退という悔しさをバネに、大型補強と若手の台頭でさらなる飛躍が期待されていたチームの、この予想外の失速。その根源には、単なる戦力不足ではなく、野球の根幹をなす「役割意識」の希薄さと、それを阻害する「凡事徹底」の欠如という、より構造的な課題が存在していた。本稿では、この「致命的な弱点」を多角的な視点から深掘りし、阿部監督が目指す野球の真髄と、その実現に向けた課題、そして今後の進化への道筋を専門的に分析する。
結論:阿部巨人の低迷は、目先の戦力差ではなく、チーム全体の「役割意識」と「凡事徹底」という、野球の本質的な課題に起因する。
1. 期待された「超」大型補強とその光と影:戦力は整っていたはず、だが…
阿部慎之助監督(46)は、昨シーズンの雪辱を果たすべく、今シーズンに向けて積極的な選手獲得に動いた。中日から絶対的守護神候補としてライデル・マルティネス投手(28)を、ソフトバンクからは長年の課題であった正捕手固定を見据え、甲斐拓也選手(32)を FA 移籍で獲得。球団史上最高額とも言われる70億円規模の補強は、救援陣の層を厚くし、バッテリーの安定化を図るという、チームが抱える喫緊の課題への明確なアプローチであった。
さらに、エース・菅野智之投手(35)のメジャーリーグ挑戦という、戦力的な穴は避けられなかったものの、戸郷翔征投手(25)、山﨑伊織投手(26)、井上温大投手(24)といった若手投手の目覚ましい成長は、先発ローテーションの充実ぶりを物語っていた。これらを総合的に見れば、2025年シーズン、巨人は優勝候補筆頭に数えられるだけの、盤石とも思える戦力が整っていた。しかし、シーズンが開幕すると、その期待は大きく裏切られることになる。
2. 阪神との「15ゲーム差」という現実:数値上の乖離が示す「得点力」の脆弱性
シーズンが進むにつれ、巨人と阪神タイガースとの間に開いた15ゲーム差という数字は、単なる順位の差を超えた、チームとしての「質」の差を浮き彫りにした。巨人のチーム打率は.249でリーグトップ、本塁打数もリーグ2位と、個々の打力には一定の自信が持てる数字を残していた。これは、主砲・岡本和真選手(29)の約3ヶ月に及ぶ長期離脱というアクシデントがあったにも関わらず、である。
しかし、これらの数字だけでは捉えきれない、チームの「得点力」における深刻な乖離が、阪神とのゲーム差となって現れた。チーム得点数で、巨人は454点、阪神は490点と、約40点もの差がついたのだ。この数値上の逆転現象は、単に「打てない」というレベルではなく、チームとしての攻撃の「効率性」に問題があったことを示唆している。
3. 根本原因の深層:「役割意識」の希薄さと「凡事徹底」の崩壊
この得点力不足の根源、そして阪神との「致命的な差」の背後には、野球というスポーツが最も重要視するべき二つの要素、「役割意識」と「凡事徹底」の浸透度合いの差が横たわっていた。
3.1. 「役割意識」の希薄さ:流動的な打順がもたらす「主体性」の欠如
巨人の低迷を語る上で、しばしば岡本選手の離脱が原因として挙げられる。しかし、巨人OBであり、中央大学野球部監督も務めた高橋善正氏の指摘は、より本質的だ。「仮に彼がシーズン全試合に出場していたとしても、阪神には勝てなかっただろう」という言葉には、チーム全体の課題への深い洞察が含まれている。
その証拠に、阪神が136個のバントを成功させているのに対し、巨人の犠打数は85個と、その差は歴然としている。バントは、一見地味なプレーに見えるが、状況判断、正確な技術、そして「チームのために」という強い意志が要求される、まさに「役割遂行」の象徴である。藤川球児監督(45)率いる阪神は、そのバントを戦術の根幹に据え、成功率を高めてきた。
一方、阿部巨人は、バントのイメージは強いものの、その成功率は低い。高橋氏は、その失敗の原因を「メンタル面。自身の役割を理解できていない選手が多いからなのでしょう」と分析する。
この「役割意識」の希薄さは、阿部監督の頻繁な打順変更という采配とも深く関連している。FRIDAYの調査によると、2025年シーズンの巨人の打順は100通り以上にも及んだのに対し、阪神は約60通りに留まった。近本選手、中野選手といったリードオフマンが出塁し、森下選手、佐藤選手、大山選手といったクリーンアップがランナーを還す。阪神の打線は、各打者が担うべき「役割」が明確であり、その遂行に集中しやすい環境が作られている。
これに対し、巨人の選手は、前日に2番を打っていた選手が翌日には6番に座る、といった起用法が常態化し、自身の「役割」を明確に把握し、それに集中する機会を逸していた可能性が高い。これは、野球における「主体性」の欠如に繋がり、個々の選手のパフォーマンスを最大化する機会を奪ってしまう。
3.2. 「凡事徹底」を阻む複雑な戦術と「思考停止」の誘惑
「役割意識」の希薄さは、もう一つの重要なキーワードである「凡事徹底」を直接的に阻害する。阿部監督が目指す、守備からリズムを作り、バントなどの小技を駆使して1点をもぎ取る野球。この「泥臭い」とも言える野球を成功させるためには、チーム全体でその意識を共有し、日々の練習で「当たり前のこと」を徹底的に追求する姿勢が不可欠である。
しかし、頻繁な打順変更や、結果が出ない選手への懲罰的な交代(例:バント失敗での交代)は、選手たちに萎縮ムードをもたらし、本来持っている力を発揮する機会を奪ってしまう。泉口選手のように、厳しい状況下でも奮起する選手もいるが、多くの選手は「凡事徹底」を実践するための精神的な余裕を失い、結果として「思考停止」に陥る誘惑に抗えなくなってしまう。
「得点圏にランナーがいる場面では、なるべく三振を避ける」といった、野球における最も基本的な「当たり前」のことさえ、意識的に遂行できない状況が生まれる。東京ドームという狭い球場では、一発長打を狙う打撃に傾倒しがちだが、それを抑制し、状況に応じた打撃を選択するには、個々の選手の「役割」と「チームとしての戦い方」への深い理解と、それを支える「凡事徹底」の精神が不可欠なのである。
4. 投手陣の課題:エース不在の穴とリリーフ陣への過剰な負担
野手陣だけでなく、投手陣においても課題は山積していた。エース格と期待された戸郷翔征投手の不調は、チームにとって大きな痛手であった。数年前から、その投球フォームや過剰な登板回数から、故障への懸念が囁かれていた戸郷投手であったが、2025年シーズンは、その懸念が現実味を帯びた一年となった。
さらに、優勝候補筆頭と目されていたにも関わらず、エース・菅野投手がメジャーリーグに挑戦したことは、戦力的な穴を埋めることが困難な状況を生み出した。加えて、シーズンを通して多くの主力選手の怪我人が続出したことも、チームの戦力低下に拍車をかけた。岡本選手、グリフィン投手、吉川投手、丸選手、甲斐選手、オコエ選手といった、チームの屋台骨を支えるべき選手の相次ぐ離脱は、チーム編成に深刻な影響を与えたことは想像に難くない。
このような状況下で、巨人がAクラス(3位以内)に踏みとどまれたことは、むしろチームの底力や、残った選手たちの奮闘を評価する声も聞かれるほど、極めて厳しい状況であったと言える。
5. 進化への道筋:「役割意識」と「凡事徹底」の再構築
「阿部巨人」が2025年シーズン、阪神との差を縮められなかった背景には、単に戦力不足という一時的な要因ではなく、「役割意識」の浸透と「凡事徹底」という、野球の根幹に関わる構造的な課題が存在したことが、本分析によって明らかになった。
阿部監督が理想とする、守備からリズムを作り、機動力を活かし、相手の隙を突いて得点を重ねる野球。この戦術をチーム全体で機能させるためには、選手一人ひとりが自身の「役割」を深く理解し、チームとして一貫した方針のもとで野球に取り組むことが不可欠である。
打順や起用法に一定の「一貫性」を持たせることで、選手は自身の役割を明確に認識し、安心してプレーに集中できる環境が生まれる。その結果、個々の選手の能力が最大限に引き出され、自然と「凡事徹底」の意識も高まるだろう。例えば、打撃コーチやバッテリーコーチとの連携を密にし、状況に応じた打撃や配球の「選択肢」を選手に示し、その遂行を促すといった、より granular な指導が求められる。
来シーズン、巨人が再び頂点を目指すためには、これらの課題に真摯に向き合い、チーム全体の意識改革を進めることが、何よりも重要となる。阿部監督の采配、そして選手たちの成長に、引き続き注目していきたい。その軌跡は、勝利への道のりが決して平坦ではないこと、そして、その道のりには常に「凡事徹底」という普遍的な原則が伴うことを、改めて示唆しているのである。
結論の深化:普遍的な野球哲学への回帰が、「阿部巨人の進化」の鍵となる。
「阿部巨人の2025年シーズン」の低迷は、現代野球における「データ至上主義」や「個の力」への過度な依存が、本来野球が持つ「チームスポーツ」としての側面、すなわち「役割意識」と「凡事徹底」という普遍的な哲学を、いかに希薄化させるかという警鐘を鳴らしている。大型補強という「近道」を模索するのではなく、チームの根幹をなす「基礎」の再構築こそが、阿部巨人が再び栄光を掴むための、唯一無二の道筋となるだろう。
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