【速報】ウシガエル食用は先進事例！利用を伴う管理の可能性と課題

厄介者から地域資源へ：外来種ウシガエルの「食用利用」が拓く生態系管理の新たな地平

結論：本稿の主旨

本稿で論じる結論は、兵庫県立篠山東雲高校の生徒たちによるウシガエルの「食用」を通じた駆除活動が、単なる地域の騒音問題への対処や、一過性の環境美談に留まるものではない、という点にある。この実践は、市民が主体となる科学的探究「シチズンサイエンス（Citizen Science）」、外来種の歴史的文脈を再解釈し社会的責任を果たす試み、そして駆除対象を資源として活用する「利用を伴う管理（Management with Utilization）」という、現代の生態系管理における複数の重要概念を統合した、極めて先進的な社会実装モデルである。本記事では、この事例を多角的に分析し、その生態学的・社会文化的な意義と、今後の持続可能な外来種対策が内包する課題と展望を専門的見地から詳述する。

第1章：問題の提起 – 篠山城の鳴き声が示す生態系の歪み

夏の夜、篠山城の堀周辺に響き渡るウシガエルの鳴き声。それは単なる情緒を欠く騒音ではない。生態学的には、在来生態系が外来種の侵略によって深刻な圧力を受けていることを示す警報（アラート）である。この問題に対し、地元の高校生が立ち上がった。

「ウシガエルがうるさい」地域住民の声から調査開始
活動のきっかけは「篠山城の堀周辺の住民がウシガエルの鳴き声で悩んでいる」という話を聞いたことだった。
引用元: 「ウシガエルがうるさい」苦情に高校生奮闘駆除して「食べて」数が …

この「住民の声」は、生活環境における苦情であると同時に、専門家や行政が見過ごしがちな地域レベルの生態系異変を知らせる貴重な情報源となる。篠山東雲高校自然科学部の生徒たちは、この情報を起点に科学的調査へと乗り出した。これは、市民からの問題提起が科学的探究へと発展する「シチズンサイエンス」の典型的なプロセスであり、地域課題解決における市民参加の有効性を示している。

ウシガエル（Lithobates catesbeianus）は、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律（外来生物法）」に基づき、日本の生態系に重大な影響を及ぼす「特定外来生物」に指定されている。その理由は、旺盛な食欲による在来種（水生昆虫、魚類、小型の両生類・爬虫類など）への捕食圧、在来カエルとの競合、そして両生類に壊滅的被害をもたらす致死性の真菌症であるツボカビ症（Batrachochytrium dendrobatidis）の感染を媒介するベクター（運び屋）としての危険性にある。篠山城の堀で観測された騒音は、このような生態学的リスクが顕在化していることの証左に他ならない。兵庫県自身も、生物多様性保全の観点からこの問題の重要性を認識しており、生徒たちの活動は行政の目標とも軌を一にするものであった。（参照：（案） – web.pref.hyogo.lg.jp）

第2章：歴史的文脈から読み解く「食用」という解決策の正統性

駆除した生物の命をどう扱うか、という倫理的課題に対し、彼らが導き出した「食べる」という答えは、奇抜なアイデアに留まらず、歴史的・生態学的に見ても深い意味を持つ。

ウシガエルは、もともと日本に食用として持ち込まれた生き物。つまり、彼らの祖先は「食材」として海を渡ってきたのです。ちなみに、今ではおなじみのアメリカザリガニも、実はこのウシガエルのエサとして輸入されたという、切っても切れない関係なんですよ。（参照：ザリガニ釣り、20年ぶり | アリ塚）

この引用が示す通り、ウシガエルの日本移入は1918年、食糧資源の確保を目的として始まった。人間の経済的・食文化的要請が、今日の生態系問題の根源となっているのである。したがって、「食べる」という行為は、導入の原点に立ち返り、人間が引き起こした問題に対して、食文化という形で責任を果たす一つの論理的帰結と解釈できる。

さらに特筆すべきは、アメリカザリガニとの関係性だ。これは、ある外来種の導入が、別の外来種の定着・拡散を意図せず促してしまう「侵略の連鎖（Invasion Meltdown）」の典型例である。ウシガエルを定着させるために餌として導入されたアメリカザリガニもまた、今や日本中の水辺で生態系に影響を与える主要な外来種となった。この歴史的経緯を理解することは、外来種問題が個別の種の管理に留まらず、生態系全体の相互作用の観点から捉えるべき複雑な課題であることを示唆している。

第3章：科学的アプローチと社会実装 – 「ウシガエル・ライスバーガー」の多面的価値

高校生たちの取り組みが優れているのは、駆除活動に「食用」という付加価値を与え、それを社会的に受容される形へと昇華させた点にある。その象徴が「ウシガエル・ライスバーガー」の開発である。

ウシガエルの「ライスバーガー」については高校生の料理コンテストである全国食の甲子園に応募し、書類審査を通過した。
引用元: 篠山城堀における外来生物の駆除活動

このライスバーガー開発とコンテストへの出品は、以下の複数の専門的意義を持つ。

食品科学的合理性: ウシガエルの肉は高タンパク・低脂肪で、食味は鶏肉に類似する。しかし、その外見からくる心理的抵抗は大きい。ライスバーガーという形態は、骨などを除去して可食部を加工し、肉の原型を留めないことで、食のタブーを乗り越えるための効果的な戦略である。
科学コミュニケーション戦略: 「全国食の甲子園」という権威ある舞台は、彼らの活動の正当性を社会にアピールし、メディアの注目を集める絶好の機会となる。これにより、「ゲテモノ食」というネガティブな印象を、「地域の課題解決に貢献する新しいグルメ」というポジティブな物語へと転換させることに成功した。
社会的受容性の醸成: ポジティブな情報発信は、人々の意識変容を促す。実際に、SNS上では好意的な反応も見られる。
> Instagramには、こんがりと焼かれたウシガエルの肉の写真と共に「めちゃくちゃ美味しそうな肉ー🤤」なんて投稿もあるほどです。（参照：めちゃくちゃ美味しそうな肉ー暖かくなって出てきたウシガエル … – Instagram）

このような一般市民からの肯定的なフィードバックは、この取り組みが単なる自己満足ではなく、社会に受け入れられ始めている証左と言えるだろう。

第4章：全国に広がる潮流 – 「利用を伴う管理」の普遍性と多様性

篠山の事例は孤立した点ではなく、より大きな潮流、すなわち「厄介者を資源として活用する」というパラダイムシフトの一部である。この動きは全国の若い世代を中心に広がりを見せている。

宮城県石巻市: 大学生たちがウシガエルを駆除し、「野菜サラダ」にして食べる活動を行っています。ちなみに、彼ら曰く「ミドリガメが一番おいしかった」とのこと…！食の探求は奥が深いですね。（参照：ウシガエルを野菜サラダに大学生4人が外来種を駆除して食べるワケ …）

愛知県名古屋市: スタートアップの祭典では、「外来生物を駆除するのではなく、食べることで生態環境を取り戻す」というアイデアを、高校生チームが発表しています。（参照：“とんがったアイデア・技術に出会える”スタートアップの祭典 …）

これらの事例は、地域ごとに異なる対象種（ウシガエル、ミドリガメなど）やアプローチ（料理、ビジネスプラン）が存在することを示しており、この考え方の適応性の高さを物語っている。侵略生物学の分野では、こうしたアプローチを「利用を伴う管理（Management with Utilization）」と呼び、駆除にかかる莫大なコストを一部でも回収し、活動の持続可能性を高める手法として近年注目が集まっている。厄介者を駆除の対象としてのみならず、食料、教材、商品といった「生態系サービス（この場合は負のサービスからの転換）」として捉え直すことで、環境保全活動に新たな経済的・社会的インセンティブを生み出す可能性を秘めている。

第5章：考察と将来展望 – 専門家が直視すべき課題

この有望なアプローチも、手放しで称賛できるわけではない。その社会実装を本格化させる上では、専門家が慎重に検討すべき複数の重要な論点が存在する。

商業化に伴う倒錯した誘因（Perverse Incentive）のリスク: ウシガエルに高い市場価値が生まれれば、駆除目的ではなく利益目的で養殖や密放流を行う者が現れる危険性がある。これは根絶を目指す本来の目的とは全く逆の結果を招きかねない。商業利用を推進する場合は、流通経路の厳格な管理やトレーサビリティの確保など、不正を防止する法的・倫理的枠組みの構築が不可欠である。
食品としての安全性確保: 野生の生物は、寄生虫や、環境中から取り込んだ重金属・農薬などを体内に蓄積している可能性がある。食用として普及させるには、捕獲場所の環境アセスメントや個体の安全性検査、そして適切な調理法の啓発など、食品衛生上のリスク管理体制を確立する必要がある。
生態学的インパクトの厳密な評価: 「数が大幅に減った」という定性的な成果報告だけでなく、科学的根拠に基づいた個体群動態のモニタリングが求められる。また、生態系からウシガエルという主要な捕食者を取り除いた結果、他の生物にどのような二次的影響（カスケード効果）が及ぶのか、長期的な視点での生態系全体の評価も必要となるだろう。

結論：統合的解決モデルとしての価値と次なる挑戦

篠山東雲高校の生徒たちによるウシガエル問題への取り組みは、地域住民の懸念を科学的探究へと繋げたシチズンサイエンスの実践であり、外来種導入の歴史的背景を踏まえた社会的責任の果たし方を提示し、さらには駆除活動を持続可能にする「利用を伴う管理」という先進的モデルを具現化した、極めて意義深い事例である。

彼らが示したのは、視点を変えれば「厄介者」は「地域資源」に転換しうるという強力なメッセージだ。この物語は、環境問題が、科学的知見、歴史的省察、創造的なアイデア、そして社会を巻き込むコミュニケーションによって、より統合的かつ効果的に解決されうることを教えてくれる。

我々に課せられた次なる挑戦は、本稿で指摘した商業化のリスクや安全性の課題を克服し、このアプローチを科学的・社会的に洗練された持続可能な管理手法として確立することである。その先にこそ、人と自然がより賢明に共生する未来が拓けるはずだ。