「誰が自民党をダメにしたのだろうか？」
この問いは、政治資金パーティーを巡る裏金事件によって、自民党全体への信頼が著しく低下した現状を端的に表しています。岸田文雄前政権からバトンを受け継いだ石破茂首相は、国民の厳しい視線に晒されながら、党内の再建という極めて困難な課題に直面しています。特に、かつて自民党内で一大勢力を形成していた「旧安倍派」からの内なる反発は、石破政権にとって避けて通れない難題です。
石破政権発足当初、「旧安倍派からの起用はありませんでした」という報道（引用元: 【一覧】石破新内閣の顔ぶれ 閣僚プロフィールと内閣のデータ | NHK）は、党内の勢力図に変化の兆しを示唆するものとして、多くの憶測を呼びました。本稿では、石破首相がこの「旧安倍派」という党内的な逆風を、どのように「世論」という強力な武器を駆使して乗り越え、自民党の再生という重責を果たそうとしているのか、その戦略の深層に迫ります。結論から言えば、石破首相は、裏金事件で失墜した党の信頼回復を最優先課題とし、旧安倍派の動向を睨みつつも、国民の支持を基盤とした「党内融和」よりも「政策実行」と「党紀粛正」を優先する方針で、党内からの反発を乗り越えようとしています。
1. 「裏金議員」への厳正な姿勢：石破流「党再生」の根幹をなす「けじめ」
自民党を揺るがした政治資金の裏金事件は、国民の政治に対する不信感を決定的なものとしました。石破首相は、この状況を打開するため、党内の「けじめ」を明確にすることを政権運営の最重要課題と位置づけています。その具体策として、政治資金収支報告書の不記載があった議員の一部を、次期衆院選で公認しない方針を打ち出しました。
石破茂首相（自民党総裁）が政治資金収支報告書の不記載があった議員の一部を次期衆院選で公認しない方針を示したのに対し、党内で賛否が交錯した。不記載議員の大半を抱える旧安倍派議員を中心に反発が広がった。（引用元: 自民党・石破茂執行部の公認方針に旧安倍派反発 「権力乱用」 – 日本経済新聞）
この方針は、まさに「誰が自民党をダメにした」という国民の率直な疑問に正面から向き合い、その責任の所在を明確にしようとする石破首相の強い意志の表れです。過去の自民党政権下では、不祥事に対する処分が曖昧であったり、責任の所在が不明確であったりするケースが散見されました。しかし、石破首相は「権力の乱用だ」といった党内からの批判を恐れることなく、党の「刷新」と「信頼回復」を強く打ち出しています。これは、政治家としての倫理観の欠如、あるいは規定違反といった「負のレガシー」から党を脱却させ、国民からの信頼を再構築するための、石破流とも言える抜本的な改革アプローチです。この方針は、政治家個人への責任追及のみならず、派閥という政治組織のあり方そのものにもメスを入れることを示唆しており、その厳格さは党内に静かな衝撃を与えています。
2. 旧安倍派への「静かなる圧力」：人事、政策、そして「政治改革」という三叉の矛
石破首相が、総裁選で激しく競合した旧安倍派からの閣僚起用を抑制した背景には、単なる人事の采配以上の戦略的意図が透けて見えます。総裁選において旧安倍派からの支持が党内基盤の安定に決定的な役割を果たしたことを踏まえ、首相は旧安倍派を「逆手」に取ろうとしていると推測されます。
旧安倍派がそうした動きにどの程度同調し、反石破の勢力となっていくのかは、今後の政局を見るうえで注目されるところだ。（引用元: 石破新政権の人事案：刷新感よりも安定感重視か：経済政策は岸田 … – 野村総合研究所(NRI) ）
この引用が示唆するように、旧安倍派が「反石破」の勢力として党内に結集すれば、党内の政治的混乱を招きかねないという「リスク」を、石破首相は暗に突きつけている可能性があります。これは、彼らの「動員力」を牽制し、結果的にその活動を抑制しようとする計算が働いているとも考えられます。さらに、政治改革を政権の主要公約に掲げ、「石破総裁直属」の「政治改革本部」を新設する動き（引用元: 自民、政治改革本部新設へ 石破総裁直属、姿勢アピール：時事ドットコム）は、旧来の「派閥」という政治構造そのものへの「釘」を刺す効果を狙ったものです。派閥の政治資金、政策決定への影響力、そして政治家個人のキャリア形成における派閥の役割を制限することで、旧安倍派のみならず、全ての派閥の勢力図に変化を促そうとする試みと言えます。これは、党内の派閥政治の力学を変化させ、旧安倍派が持つ影響力を相対的に低下させるという、より長期的な視点に立った戦略とも解釈できます。
3. 世論という「強力な盾」：国民からの支持を基盤とした政権運営の必然性
石破首相が頼りにしているのは、旧安倍派のような党内の特定の勢力だけではありません。むしろ、国民からの支持、すなわち「世論」こそが、彼の政権運営における最も強力な武器であり、同時に「盾」となり得ます。
岸田文雄首相が9月の自民党総裁選に立候補せず、首相を退くと突如表明した。「聞く力」を掲げたはずが、その意…（引用元: 裏金、国葬、旧統一教会…岸田政権は「負のレガシー」に迷走した … – 東京新聞デジタル）
この東京新聞の記事が指摘するように、岸田前政権は「負のレガシー」に翻弄され、国民の支持を大きく失いました。「聞く力」を掲げながらも、国民の多様な声に十分に応えきれなかったという反省は、石破首相も共有しているはずです。政治資金事件によって国民の政治不信は極限に達しており、このような状況下で、国民の声に真摯に耳を傾け、それを政治に反映させるという「姿勢」を貫くことは、何よりも説得力を持つでしょう。
万が一、党内で「石破おろし」といった内向きの動きが加速したとしても、石破首相は世論という「強力な盾」を掲げ、党内からの圧力を跳ねのけようとするはずです。野党からの政治的追及に耐えながらも、国民からの支持率を盤石なものにできれば、党内からの反対論を静め、政権基盤を強化することが可能となります。これは、政治学における「大統領制」的な要素、すなわち、国民からの直接的な支持を基盤に、議会（この場合は党内）の反対勢力に対抗するという戦略とも言えます。世論の支持は、党内論理を凌駕する力となり得るのです。
まとめ：石破政権、国民の期待を「変革の力」に変えて前進できるか？
石破茂首相は、「誰が自民党をダメにした」という国民からの問いに対し、自らを改革の担い手と位置づけ、世論を味方につけてこの難局を乗り越えようとしています。旧安倍派からの反発という、党内における無視できない強力な逆風にもかかわらず、公認方針の厳格化や政治改革の断行といった具体的な行動で、国民からの信頼回復を目指す姿勢は、ある意味で党内の慣習に囚われない、清新なアプローチと言えます。
石破政権が、国民からの期待を、自民党の「変革の力」として具現化できるのか。その手腕は、政治資金事件によって失われた国民の政治への信頼を回復し、自民党が今後も「国民のための政党」であり続けられるのかを占う上で、極めて重要な試金石となるでしょう。国民は、石破首相に「抜本的な改革」を求めており、その期待に応えられるかどうかが、今後の政権の命運を左右すると言っても過言ではありません。
コメント